【目的】当科では、成人発症性低リン血症性骨軟化症の患者に、長期間に渡りリンを補充していたところ、3次性の副甲状腺機能亢進症を呈した症例を経験した。この患者の腎機能は現在に至るまで正常なので、高リン血症により副甲状腺細胞の増殖が刺激され、種々の細胞増殖因子や、腫瘍増殖因子が活性化あるいは癌抑制遺伝子が不活化されて、腫瘍化したと推測される。そこで、ヒト副甲状腺組織を種々のリン濃度で培養した場合に、どのような遺伝子変化が生じるかを検討するため、ヒト副甲状腺細胞の器官培養系を確立した。【方法】手術時に得られた、副甲状腺組織片(病理はすべて副甲状腺機能亢進症を呈したnodular hypelplasiaあるいはadenoma)を細切し、コラーゲンを塗布したナイロンメッシュ上にて浮遊状態で数日間培養した。その後、total RNAを抽出し、種々のcDNA microarrayを用いて遺伝子の動きを検討した。【結果】PTHの分泌は生理的なイオン化カルシウム濃度(1.0〜1.2mM)のところで濃度依存性に抑制された。また、高リン濃度の培養液ではPTHの分泌は促進され、さらに細胞増殖も亢進することも確認された。さらにcDNA microarrayを用いて検討したところ、リンによりカルシウムで制御されるtaranscription factor、細胞周期に関連のあるサイクリン関連遺伝子、血管内皮細胞増殖因子などが活性化していた。また、機能不明の遺伝子の発現も認められた。【考察】慢性腎不全患者における副甲状腺の病態を長期間(〜1ヵ月)にわたり保持しているヒト副甲状腺細胞の器官培養系を確立できた。現在、17000個の遺伝子の動きを解析できるcDNA microarrayを用いて、高リン濃度の培養液により誘導される細胞増殖刺激因子を検討中である。
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