研究概要 |
1,成人T細胞白血病(ATL)は極めて悪性の白血病であり、一旦発症すると大部分の患者が1年以内に死亡する。ATLはT細胞の悪性増殖を特徴とする疾患で、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染によって引き起こされる。約5%のHTLV-1感染者が平均60年の潜伏期間を経てATLを発症することから、感染細胞中に生じる複数の宿主遺伝子変異がATL発症に関与していると考えられている。しかし、ATL発症に関わる宿主遺伝子異常の実体は、ほとんど不明である。我々は、調べた限り全てのATL患者の末梢血白血病細胞において、転写因子NF-kBが活性化していること、NF-kBの阻害剤がこのATL細胞にアポトーシスを誘導し、ATL細胞を死滅させることを報告してきた。ATL細胞から樹立した細胞株を免疫不全マウスに移植すると腫瘍を形成するが、このマウスをNF-kB阻害剤で処理すると、腫瘍の増殖が抑制されることを見いだした。また、このマウスにおいては、末梢血中で腫瘍細胞が検出され、白血病の所見を呈するが、NF-kB阻害剤はこの末梢血中へのATL細胞の浸潤も強く抑制した。以上の結果は、NF-kBの阻害剤がATLの治療に有効であることを示唆している。 2,ATL細胞においてNF-kB活性化に関与している遺伝子を同定するために、ATL細胞株からmRNAを抽出し、これをもとにレトロウイルスベクターに組み込んだcDNAライブラリーを作製した。また、NF-kBの活性化でGFPの発現と薬剤耐性が共に誘導されるレポーター細胞株を樹立した。この細胞株にライブラリーウイルスを感染させ、薬剤耐性とGFPの発現を指標に、NF-kB活性化遺伝子を複数分離同定した。現在分離された遺伝子のNF-kB活性化能さらにATL発症への関与について検討中である。
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