好中球は感染防御の中心的役割を担っており、組織に病原微生物が侵入するとそれを感知し、病巣局所へと集積する。この時、血流中にある好中球は血管内皮を通過し組織へと移動する。血管内皮を通過するためには、好中球に発現するCD15、CD15sと血管内皮に発現するセレクチンの反応により、それぞれに発現するβ2インテグリンとICAM-1の発現並びに機能的変化がもたらされ、トランスミグレーションが進行する。この一連の過程を制御する機構はまだ充分に明らかでなく、そこでNOに注目してNOによる制御機構を明らかにすることとした。血管内皮としてHUVECを用いてin vitroにおける研究を進めた。 これまでの研究の結果、NOがHUVECから産生されること、好中球がHUVECを通過する実験系でNOの添加はトランスミグレーションを抑制しNO消去剤は増強することなどを明らかにした。またNOは好中球に作用してトランスミグレーションを抑制することを明らかにしてきた。そこでNOが作用した好中球に認められる変化を明らかにすることとし、作用点としてはguanylate cyclase(GC)に注目した。GCを活性化する物質、YC-1を好中球に作用させると、好中球のトランスミグレーションは抑制された。一方GCの抑制剤ODQは、好中球のトランスミグレーションを促進した。 以上よりHUVECから産生されるNOが好中球に作用し好中球のGCを活性化することにより、トランスミグレーションを抑制すると考えられた。NOは通常好中球のトランスミグレーションに対して抑制的に作用し、炎症時にはその抑制を解除することにより、またその他の促進機序が稼働することにより、好中球がすみやかに炎症局所に集積するものと考えられる。
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