16年度は遺伝子ではなく蛋白を樹状細胞(dendritic cells;DC)に貪食させて効率のよい抗原提示を誘導する系の確立を試みた。破傷風トキソイド(tetanus toxoid;TT)を抗原として中性リポソームに封入し、これにヒトIgGを結合させたもの、およびさせないものを作製した。これらのリポソームをヒト単球由来DCに貪食させたところ、IgG-liposomeがCD4^+ T細胞への封入抗原の効率よい提示を誘導した。ついで、マウスのin vivoの系にて、抗原封入IgG-liposomeが強力な抗腫瘍免疫反応を誘導するかどうかを検討した。C57BL/6マウス由来T細胞性リンパ腫細胞株EL-4にモデル抗原としてOVAを遺伝子導入したE.G7-OVAをC57BL/6マウスの背部皮内に1 x 10^6個接種して9日後と12日後に、OVA単体、マウスIgGが結合していないリポソームに封入したOVA、またはマウスIgGが結合したリポソームに封入したOVAを貪食させた骨髄由来DCを皮内投与した。この治療モデルにおいて、OVA封入IgG-liposomeを用いた場合に腫瘍の増大が強く抑制され、5例中1例において腫瘍の完治が達成された。OVA封入IgG-liposomeを貪食したDCだけが、in vitroにおいてOVAペプチド特異的CD8^+ T細胞を強力に刺激しIL-2の産生を誘導した。以上より、蛋白抗原を封入したIgG-liposomeがFcγレセプターを介してDCに貪食されると、MHCクラスIIのみならずMHCクラスI分子にも効率よく抗原ペプチドが提示されて、強力な抗腫瘍免疫反応が誘導される。したがって、IgG-liposomeはDCを用いた癌免疫療法における有力な抗原デリバリーシステムと考えられる。
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