研究概要 |
TEL/ARGは白血病患者検体より検出された転座型融合遺伝子であるが,その遺伝子の機能ならびに白血病発症への役割は未だ良く解析されていない.本研究ではTEL/ARGの分子機構の解明と同遺伝子による生体への作用の正確な把握を目的としている.これまでに私は野生型のTEL/ARG遺伝子をテトラサイクリンによる誘導発現系を用いて細胞に発現させる事によりARGキナーゼの活性亢進に伴う細胞内シグナル伝達,ならびに細胞の増殖因子非存在下での生存能力と増殖因子に対する反応性の増強作用といった基礎研究結果を得てきている. 今年度はまず細胞生物学的および生化学的作用へのTEL/ARG構造必須領域を決定する為に,人工的に後述する7種類の遺伝子変異体を作製しての検討を開始した.すなわちTEL構造内では(1)ホモダイマー形成能を担っているHelix-loop-helix領域の削除(ΔHLH),(2)自己リン酸化部位の一つでras経路の活性化に関与するGRB2蛋白の結合が示唆されるチロシン残基Y314のフェニルアラニンへの点突然変異(Y314F),(3)Y314を含むExon5領域全体の削除体(ΔEx.5)を対称として作製した.加えてARG構造内において(4)SH3領域の削除(ΔSH3),(5)SH2領域の削除(ΔSH2),(6)C末端領域の削除(ΔC-term),ならびに(7)ARGチロシンキナーゼ失活化点突然変異体(K317R)を分子生物学的手法を用いて作製した. 各々変異cDNAはその野生型と同様にテトラサイクリン誘導発現ベクター(pTRE)に組み入れ、テトラサイクリン誘導規制遺伝子を導入したBa/F3細胞であるTon B. 細胞株にエレクトロポレーション法を用いて導入した.この時ハイグロマイシン耐性遺伝子を共導入して薬剤選択を行った.既に薬剤耐性細胞株をスクリーニングの結果,テトラサイクリンの添加により各々目的変異蛋白が発現する細胞株を樹立する事ができた. 来年度は得られた各種変異TEL/ARG遺伝子の誘導発現細胞株を用いて,同変異蛋白の発現に伴う細胞の生物学的ならびに生化学的な作用の検討を予定している.
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