これまでに先天性赤芽球癆患者の造血幹細胞におけるRPS19遺伝子発現の低下が赤芽球産生異常の原因となっていることを明らかにしてきた。しかし患者造血幹細胞にRPS19遺伝子を強制発現させても赤芽球形成能は正常値の60〜70%までしか回復せず、このことは、RPS19遺伝子発現異常が他の遺伝子に連関して赤血球系細胞の増殖、分化に影響を与えていることが示唆された。(Mol Ther2003) Niklasらとの共同研究により、RPS19遺伝子欠損マウスの作製、解析を行ったところ、ホモマウスは胎生初期に死亡し、患者の病態に近いと予想されたヘテロ欠損マウスでは精子形成異常をみとめ妊よう性の低下がみられたものの、赤血球産生異常は認められなかった。この結果は、マウスとヒトとの間でRPS19遺伝子機能が異なるためではないかと考えられた。(Mol Cell Biol 2004) そこで、RPS19に対するsiRNAを用いてヒト造血幹細胞でRPS19遺伝子を欠損させることにより、先天性赤芽球癆の病態に近いモデルの作製を行った。ヒト臍帯血CD34陽性細胞においてレンチウイルスベクターを用いてRPS19に対するsiRNAを強制発現させ、RPS19の発現をブロックしたところ、赤芽球コロニー形成能の低下が認められた。またRPS19の発現がブロックされたCD34陽性細胞を液体培養したところ、明らかに赤芽球系細胞の増殖、分化が障害されていることが明らかとなった。(Blood in press) これらの結果から、RPS19遺伝子をヒト造血幹細胞で発現をブロックすることにより、貧血の原因となる赤芽球系細胞の増殖、分化の異常をおこすことが再現され、先天性赤芽球癆の病態モデルとなりうることが示された。今後、このモデルを用い、病態の解明をすすめ、治療のための基礎研究をさらに発展させる。
|