平成15-16年度を通じて研究代表者らは、巨核球を含む骨髄細胞の再生増殖と抹消血中への動員機構と血管新生との関連性の解析を進め、顆粒球コロニー刺激因子をはじめとする一部のサイトカイン/ケモカインの投与、あるいは放射線照射等の生理学的ストレスがマトリックスメタロプロテイナーゼ-9の活性化とこれに誘導される造血因子Kit-ligandのプロセシングを促進し、骨髄中の細胞分化を促進すること、また造血前駆細胞のみならず、生体内の血管の構築に関与する血管内皮、平滑筋等の前駆細胞を抹消血中へ動員することを発見した。これらの研究成果については、腫瘍血管新生に関する新仮説と共に、国際誌上で発表した。 さらに研究代表者らは各種生体分子を介した巨核球系細胞の分化成熟と血管新生機構との相互作用を明らかにするため、血小板産生過程において最も重要なサイトカインの一つであるトロンボポイエチン及びその受容体遺伝子欠損マウスを用いた実験を行い、stromal cell-derived factor-1をはじめとする一部のケモカイン/サイトカインは、こうしたマウスの骨髄内でも巨核球分化を促進し、抹消血中に著しい血小板増多をもたらすこと、さらにこれらの因子が骨髄内接着分子発現を増強することによって、成熟した巨核球を骨髄内の骨芽細胞領域から血管領域へと誘導し、かつ血管内皮との接着を抑制する作用を有すること、そして巨核球系細胞の分化成熟過程は骨髄内血管領域に依存する部分が大きいという事実、加えて巨核球系細胞は血管新生因子の供給源としても非常に重要な役割を担っていること等の事象を解明し、国際誌上で報告した。 本研究成果は巨核球系細胞活性化機構の解明のみならず、様々な原因による血小板減少症に対する新しい治療法開発の可能性を提示した点でも極めて意義深く、血管新生機構解析の面でも今後の展開に多くを期待し得る内容であるといえよう。
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