【目的】 NF-κBは細胞増殖に関与する重要な転写因子であり、その核内移行を制御しているのがIκBである。ホジキンリンパ腫ではIκB遺伝子の変異が報告され、それによるNF-κBの脱制御、腫瘍化の機序が考えられている。一方。成人T細胞性白血病(ATL)でもNF-κBの発現が亢進していることが知られている。本研究の目的はIκB/NF-κBの異常によるATLの発症機構および抗腫瘍効果との関連を解明することである。 【対象と方法】 ATLの4細胞株(OKM2T、OKM3T、F6T、Su9T01)と1例の急性型ATL患者末梢血、非ATLの10細胞株、対照として正常人リンパ球を用いてIκBαの全エクソンについてRT-PCRを行い、シークエンサーで塩基配列を決定した。またATL細胞株(MT1、MT2、F6T、OKM3T、Su9T01、HUT102)に対するPioglitazoneの抗腫効果を検討し、その際のNF-κB蛋白の発現を免疫染色で調べた。 【結果】 RT-PCRで全検体にIκBαが発現していた。塩基配列はATL検体では異常が見られなかったが、KS1/HHV8が関与しているリンパ腫細胞株KS1でコドン30に変異が認められた。さらにHL60、K562、OKM2T、有毛細胞性白血病の患者検体でコドン27に、U937、Su9T01、KS1でコドン102にsilent mutationが認められた。Tax蛋白はNF-κBを活性化させることが知られているが、tax発現細胞であるOKM3Tでは核内にNF-κBが発現していた。KS1では核内のNF-κB発現は弱く、検出されたIκBαの変異はNF-κBの核内移行を促進していないと考えられた。100μMのPioglitazone処理でATL細胞株はいずれも著明にコロニー形成が抑制された。同じ条件で正常人のCFU-GM、CFU-Eのコロニー形成は抑制されなかった。Pioglitazone処理でATL細胞株のNF-κB発現量および局在は無処理対照と変化がなかった。PioglitazoneはATLに対して強い抗腫瘍効果を示すが、IκB/NF-κBを介さない機序と考えられた。
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