マイナー組織適合抗原(以下、mHAg)に特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)のうち、造血器腫瘍細胞を含む血液系細胞のみを傷害するものは同種造血幹細胞移植後の再発腫瘍の免疫療法に有用である。我々は以前HLA-A24およびB44に拘束性のmHAgをコードしている遺伝子(BCL2A1)の同定に成功したが、このmHAgのドナー・不適合が移植後の合併症に及ぼす影響をHLA一致移植を受けたHLA-A24陽性320例を対象として検討した。このmHAgの不適合は重症移植片対宿主病の発症に有意な影響を与えず、合併症を引き起すことなく養子免疫療法に用いることができると考えられた。 次にHLA-A^*3303拘束性のCTLが認識するmHAgの同定を行った。細胞パネルを用いた検討により、1つのHLA-A^*3303拘束性CTLはY染色体上のq11.2に存在するTMSB4Y遺伝子の産物を認識しており、エピトープはTMSB4Yの非翻訳領域から潜在的に翻訳される11アミノ酸長のペプチドであることが分かった。この遺伝子は比較的血液系細胞に多く発現しており、免疫療法への応用性を現在検討している。 さらに、HLA-A^*3303およびA^*3101拘束性のCTLを用いて、これらが認識するmHAgをコードする遺伝子の同定を行った。リンケージ解析にて2つのCTLはともに15番染色体の長腕q25に存在する遺伝子産物を認識していることが判明した。また発現クローニング法にてカテプシンH遺伝子のエクソン1に存在する多型部位に2つのCTLが認識する抗原エピトープが存在することが分かった。この遺伝子の発現は血液系細胞特異的では無いが、腫瘍の転移に関係する酵素をコードしているので、免疫療法に利用できる可能性が高い(投稿中)。現在これまでに同定した有望なmHAgペプチドを用いて、造血器腫瘍患者に対する養子免疫療法の臨床試験を開始しつつある。
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