(1)レチノイン酸受容体の異常は白血病化の原因として知られているが、この異常が白血病をどのようにして引き起こすのかについては十分明らかではない。研究代表者は、レチノイン酸受容体が転写因子GATA-2と直接結合することをはじめて見出し、この結合を介してGATA-2の機能を調節しうることを示した。すなわち、ホルモンの一種であるレチノイン酸は、その本来の受容体を介して機能を発揮するだけでなく、GATA-2という転写因子を介して、これまで未知であった機能を示す可能性がある。レチノイン酸受容体が変異している白血病では、従ってGATA-2の機能も変異しており、このことが白血病化に寄与する可能性がある。事実、GATA-2存在下にレチノイン酸を添加すると、造血細胞コロニー形成能が変異することを見出している。 (2)TEL-AML1融合遺伝子は小児白血病で最も多く見られる異常で、プロB細胞性白血病を引き起こすことが知られているが、どのような機構で白血病にいたるのかについてはこれまで全く知られていなかった。研究代表者は、TEL-AML1融合遺伝子を発現させた造血幹細胞を放射線照射マウスに移植することにより、はじめてモデルマウスを作成することに成功した。このマウスの解析を通じ、TEL-AML1はB細胞の分化をプロB細胞段階で止める働きがあること、またTEL-AML1発現造血細胞はマウス体内で正常造血細胞に比して増殖能が高いことを見出した。この結果はTEL-AML1による白血病化を考える上で重要な知見を提供している。
|