気管支喘息患者において気管支平滑筋は気道上皮側の粘膜下層へ遊走し、その重症化に関与すると予想される。培養ヒト気管支平滑筋細胞(BSMC)はボイデンチャンバー法でPDGFによって遊走が惹起されるが、PDGFによる遊走はスフィンゴシン1リン酸(SIP)によって有意に抑制された。PDGF刺激によってBSMCではGTP結合蛋白Rac1の活性化が確認されS1PはPDGF刺激によるRac1の活性化を抑制した。また、Dominant negative Rac1をアデノウイルスを用いて遺伝子導入したBSMCではコントロールに用いたEGFPをアデノウイルスで遺伝子導入したBSMCや、アデノウイルスを感染させないBSMCに比較して、有意にPDGFによる遊走が抑制された。以上の結果より、S1PはRac1の活性化を抑制して、BSMCの遊走を抑制するものと予想された。一方BSMCはTNF刺激によってRANTESを産生するが、RANTES産生もS1Pによって有意に抑制された。この抑制はmRNAの転写レベルで起きていることを半定量PCRにより確認した。BSMCではTNF刺激によりRac1の活性化は惹起されず、Dominant negative Rac1を遺伝子導入したBSMCにおいて、RANTES産生の抑制が観察されなかったことより、S1PによるRANTES産生抑制はRaclには依存しないことが示唆された。BSMCにおいてTNF刺激により、NFκB経路およびc-Jun amino-terminal kinase(JNK)の活性化が惹起され、阻害薬を用いて両経路のいずれかを遮断するとRANTES産生が抑制されたことより、両経路がTNF刺激によるRANTES産生に必要であると考えられた。しかしながら、S1PによってNFκBの活性化、JNK活性化のいずれも影響されなかった。
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