気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患は、世界的に罹患率が増加傾向にあり、その病態解明と治療確立が急務となっている。気管支喘息の過半を占めるアトピー型の主要な発症機序であるIgE依存性I型アレルギーにおいては特に重要とされる、遅発相或いは慢性アレルギー反応において好塩基球が病態形成に関与するとの知見が集積され注目されてきている。 我々は、作業仮説として、IgEがアレルギーにおける病態形成とは逆の防御的作用をも発揮して二面的な働きを示す可能性を想定し、本研究にて解析を行った。従来から知られているとおり、IgE架橋刺激が好塩基球活性化の中心的機構であるが、我々は反応抑制(いわゆる脱感作反応)の見地から解析を進め、以下のような結果を得ている。 1)ヒト好塩基球に於いて、脱感作処理を受けた後においては、細胞内Lyn・Syk・Btk含有は無処理細胞と差はなかった。 2)IgEと抗IgE抗体の濃度を様々に変えて処理した後に、好塩基球の反応性が変化することを確認した。両者のバランス次第では、好塩基球の反応性をかなり弱める状況も見られた。反応性変化の機序としては、脱感作以外のものも考えられた。すなわち、a)抗IgE抗体に対するfree IgEの中和作用、b)IgE-抗IgE免疫複合体がFcεRIに結合、などが想定される。 以上のように、ヒト好塩基球の反応性調節作用は種々の因子が複雑に絡んでいると考えられる。本研究で得た知見は、アレルギー性炎症に於ける好塩基球の反応性理解に重要と考えられる。また我々の知見は、従来治療標的がサイトカインに偏る傾向があるのに対し、IgEが関連する新たな視点を提供することになるものと期待される。
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