申請時に計画したターゲッティングベクターはDbl遺伝子のPHドメインを標的としたものであったが、海外の研究者が我々に先行して行った遺伝子導入の結果、ほぼ同様の領域を標的としたノックアウトマウスが胎生致死となることが解った。この結果を踏まえて、胎生致死の発生を避けるためにCre-loxPシステムを用いた標準的な手法でのコンディショナルノックアウトマウスを作成し、得られたloxマウスをEIIa-Creマウスと交配させてDbl-KOマウスを得た。 近年、Dblを含むRho familyを介したシグナル伝達系の研究が進展し、アクチン重合能や細胞遊走能のみならず、種々の増殖因子がRho familyを介した経路で細胞増殖に影響を与えることが明らかになってきており、Dbl-KOマウスより樹立した初代培養系胎児性線維芽細胞(Mouse Embryonic Fibroblast cell line ; MEFs)を用いた実験で、Rho family蛋白であるRho、Racおよびcdc42活性がKO-MEFsにおいて低下している事が見いだされた。同時に、EGF(Epidermal cell growth factor)刺激下に行った実験で、KO-MEFsのアクチン重合能が低下していることも併せて証明された。Dbl遺伝子除去によりRho family蛋白の機能不全から細胞運動能に変化をもたらした事は極めて意義深いことと考えられ、現在更なる検討を継続中である。 同時に、関節炎好発系統であるDBAマウスへの戻し交配を開始しており、当初の課題である関節炎の発症に与えるDbl遺伝子除去の影響についても検討を行う予定である。
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