申請者は平成15-16年科学研究費を用いて以下の結果を得た。免疫抑制性分子であるPD-1もしくはそのリガンドであるPD-L1に対する抗体を投与したところ、実験的自己免疫性脳炎(多発性硬化症動物モデル)では、疾患の増悪がみられた。以上より、この系においては主にPD-L1/PD-1の系が免疫抑制性の機能を果たしていることが明らかになった。他の免疫抑制性分子であるTRAILではその抗体投与により、実験的自己免疫性脳炎は悪化したが、全身性エリテマトーデスモデルであるNZB/WF1マウスに投与したところ、疾患の軽度の増悪が観察されたが、有意ではなかった。さらにTRAIL受容体であるDR5を刺激する抗体を作製し、NZB/WF1マウスに投与したところ、軽度の自己抗体産生抑制効果しかみられなかったことから、TRAIL/TRAIL受容体システムは全身性自己免疫疾患では軽度の役割しか持たないことが示唆された。 そこで臓器特異的モデルにのみにしぼり、PD-1分子やTRAIL分子、さらにはCTLA4分子を自己反応性T細胞にレトロウイルスを用いて遺伝子導入、これらの分子の強制発現による疾患治療の可能性に関して検討をおこなった。コラーゲン誘導関節炎(関節リウマチ)モデルに移入したところ、疾患を改善できることをみいだした。次にin vivo imaging systemを用いて検討をおこなった。その結果、自己抗原非特異的T細胞は細胞移入後、すみやかに肺に集積し、その後所属リンパ節ならびに肝臓に集積したが、関節への集積はみられなかった。しかし、II型コラーゲン特異的T細胞ハイブリドーマでは、細胞移入後、すみやかに肺に集積し、その後所属リンパ節に集積するのみならず、炎症関節に特異的に集積した。以上の結果より、免疫抑制性分子を発現した自己抗原特異的T細胞は、炎症臓器局所で作用していることが強く示唆された。
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