血管炎症を主体とする疾患群である血管炎症候群では血管内皮細胞に対する自己抗体<抗内皮細胞抗体>が出現し、血管内皮細胞に障害を与え血管炎を誘起あるいは助長する機序が考えられている。抗内皮細胞抗体の対応抗原とそれによる内皮細胞障害の機序を解明すれば、血管炎の初期においてその進行を防げると考えられる。本研究では、プロテオミクスを用いてこの抗内皮細胞抗体の対応抗原の同定とその役割を検討することを目的とした。方法として、ヒト臍帯静脈由来内皮細胞(HUVEC)と比較のためHela細胞から蛋白を抽出し、等電点および分子量による2次元電気泳動法で分離展開した。その後、各種血管炎患者血清を用いてdifferential western blottingを行った。その結果、約50個のHUVECに特異性の高い自己抗原を検出した。mass-fingerprinting法にて同定した候補蛋白の中にperoxiredoxin2があり、組換え蛋白を作成し、ELISE法にて、血管炎を含む多数膠原病血清を検索した結果、本自己抗体は血管炎患者の60%以上で検出されるが、血管炎を有しない場合は10%程度であることが判明し、血管炎の存在に特異性の高いことが判明した。特に、この抗peroxiredoxin2自己抗体は大中型血管炎でも高頻度に出現することがわかり、現在血管炎マーカーとして利用されている抗好中球細胞質抗体とは独立した血管炎マーカーになることが期待された。さらにフィブリンの形成と融解機序に関与すること、疾患の活動性と相関することなども判明した。このperoxiredoxin2は抗酸化作用をもつ酵素で、細胞表面にも検出されることから、これに対する自己抗体が血管炎において、血管内皮細胞に直接結合するか、あるいは血管内皮細胞が酸化に対する抵抗性が現弱し傷害が進むことで、血管炎の増悪因子になりうる可能性が示された。手法の面からは、プロテオミクスの利用が細胞腫あるいは組織特異的に発現する自己抗原を検出するために極めて有効であることが証明された。今後、抗peroxiredoxin2自己抗体の血管内皮細胞に対する作用を検討する予定である。
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