研究概要 |
【研究の目的】 ダウン症の新生児の約一割に、類白血病状態(TMD)を示す例が認められる。TMDの一部は4年以内に急性巨核球性白血病(AMKL)を発症する。BACH1遺伝子は、21番染色体上のダウン症関連領域に座位する。本研究の目的は三つある。第一に、トランスジェニック・マウスにおいて転写因子BACH1の過剰発現が引き起こす、血小板産生抑制のメカニズムを明らかにすること。第二に、BACH1過剰発現により標的遺伝子を明らかにすること。第三に、ダウン症患者にみられるTMDとAMKLの発症における、BACH1の関わりについて検索することである。 【結果】 トランスジェニック・マウスの巨核球を透過型電子顕微鏡で観察したところ、デマルケイション膜およびα顆粒の形成が著しく抑制され、ミトコンドリアの空胞化、核におけるヘテロクロマチン領域の減少が観察された。巨核球系への造血前駆細胞の増殖能をみる目的でCFU-Megアッセイを行ったが、野生型との間にコロニー形成の大きな差はみとめられなかった。これらの結果は巨核球系細胞の最終分化および成熟段階が障害を受けていることを示唆するものである。 胎生13.5日の肝臓細胞をトロンボポエチン存在下で培養することによって得られた巨核球を用いて、遺伝子の発現を解析した。この解析によって、β1-tubulin, Thromboxane A synthaseの発現が抑制されていることが示された。また、TXAS遺伝子の発現調節領域にBACH1が結合していることが染色体免疫沈降法にて確認された。これらの結果は、BACH1がp45 NF-E2と拮抗的に作用することにより、巨核球の分化・成熟を抑制している可能性を示唆している。現在、白血病細胞株におけるBACH1の機能を明らかにするためにBACH1遺伝子を導入し、過剰発現株の作製に成功した。
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