[目的]肝移植に代わる治療法として細胞移植治療が考慮されている。最近、骨髄細胞中に肝細胞に分化できる幹細胞が存在することが報告されているが、肝細胞に分化可能な骨髄細胞の数は非常に少なく、このような細胞を分離するには大規模な設備が必要である。そこで、本研究では以下の二つを目的とした。(1)申請者らがこれまでに確立してきた肝臓から肝幹細胞を分離する方法を発展させ、骨髄細胞より多分化能を保持した肝幹細胞を効果的に分離できる方法を開発する。(2)分離した肝幹細胞が短期間で増殖できる条件を見つけだし、さらに組織工学的手法を応用して移植に適した状態に加工し、小児代謝性肝疾患に対して充分な治療効果が期待できる幹細胞移植法を確立する。昨年度の研究から、骨髄細胞中にはアルブミンを発現する肝細胞の性質を持った細胞に分化可能な細胞が存在し、これをin vitroで培養できることがわかった。今年度はさらに、肝細胞以外の肝臓構成細胞に分化できる細胞が骨髄中に存在するか否かを検討した。 [方法]健常ラット大腿骨より骨髄細胞を採取後、パーコール密度勾配遠心法を用いて、比重1.077より軽い分画中の細胞を分離した。得られた細胞を単独であるいは肝星細胞と共培養した。タンパク発現を免疫染色法、ウェスタンブロット法で検討した。 [結果]肝類洞内皮細胞を特異的に認識するSE-1抗体で分離した骨髄細胞を染色したところ、少数の有核細胞が染色された。さらに、肝星細胞と共培養したところ、その数は培養日数(最長3週間)の経過とともに増加した。骨髄細胞におけるSE-1抗原の発現増加はウェスタンブロット法でも確認できた。 [結論]本研究において、骨髄細胞中には肝細胞のみならず肝類洞内皮細胞の前駆細胞も存在していることが示唆された。今回用いた分離法によって、骨髄から肝臓の前駆細胞が得られることが明らかとなり、細胞移植の細胞源として骨髄が有用であることが示された。
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