初年度に、ターゲティングベクターを作成するため、マウスgenomeライブラリーから4つのクローンを得てサブクローニングした。しかし、その核酸配列が目的とするフラグメントとは異なることが最終的に判明した。残り1年で目的とするモデルマウス作成は困難と判断し、本年度は今回発見したNav1.2のI1473M変異のin vitroでの電気生理について研究を進めた。その結果、以下の事が明らかとなった。(1)電流電圧特性が変異体では-1.3±0.3nA(Cont.-1.8±02)と低下した。(2)電位依存性活性化曲線に有意な変化は無いが、不活性化曲線は-62.3±1.2(Cont.-68.8±1.2)mVと左方移動した。(3)不活性化からの回復曲線はτ=4.4±0.8(Cont.2.7±04)msと遅延した。以上より変異体は興奮性が低下すると考えられ、脳波所見や臨床症状と一致した。次に、リドカイン(Ld)の影響について検討した。Ld濃度0.5mMではNaチャンネル抑制率に有意な違いは無かったが、臨床使用濃度に近づけ、10^<-6>Mで検討すると以下の結果が得られた。(1)電流電圧特性が変異体では陰性側に変位した。(2)電位依存性活性化曲線が-44.9±0.6(Cont.33.4±0.6)mVと左方変位した。(3)不活化曲線に有意な変位はなし。これらの結果は、低濃度Ldが変異体Naチャンネルの活動性を亢進することを意味しており、変異体をもつ患者でLdが特異的に有効であったことと合致している。これまで、LdはNaチャンネルブロッカーとして認知されており、作用部位も特定されている。今回の結果は、これまでの概念とは異なり、Ldが濃度依存性に異なる作用機序と作用部位をもつ可能性を示唆しており、極めて重要な発見と考えられる。
|