研究概要 |
我々は従来より肺高血圧に随伴する肺血管リモデリング修飾機構のうち、血管内皮から産生される一酸化窒素(NO)に着目し、肺高血圧(PH)モデルにおけるNO産生低下の大きな要因として、血管内皮中の内因性NO合成酵素阻害物質の増加およびアルギニン(L-arginine)の減少を証明した。またその結果生ずる血管壁endothelin-1の増加を証明した。今回の科学研究の目標は、NO産生系のeNOS活性とともにL-arginineの減少原因としてarginaseによるL-ornithine生合成系の関与を明らかにすることである。 現在肺動脈内皮細胞内のL-arginineを基質とするeNOSおよびarginase活性をRIA法にて測定し、PH群ではコントロール(C)群に比し前者は有意に低下(PH:146±40,C:405±75 pmon/mg protein)、後者は有意に上昇している(PH:1672±457,C:530±77 pmol/mg protein)ことが明らかとなった。本結果からPHモデルにおいては、eNOS蛋白発現増加(免疫組織化学法による以前の実験結果)にもかかわらずeNOS活性低下によりNO産生は低下する。さらにargmase活性上昇によりNOの基質でもあるL-arginineの減少が,NO産生低下に拍車をかけていることも判明した。 今後は肺動脈内皮細胞内arginase活性の上昇に基づくL-ornithine濃度の増加,このシグナル伝達下流に存在し,かつ血管リモデリングに直接関わるprolineおよびputrescineの合成酵素であるornithine aminotransferaseおよびornithine decarboxylase活性の上昇が予想され,来年度の研究継続によりさらに肺血管リモデリング修飾機構を明らかにすることが可能であると考えている。
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