研究概要 |
内皮由来一酸化窒素(NO)は、肺高血圧(PH)に随伴する肺血管リモデリングにおいて中心的な役割を果たしていることがわかっている。肺高血圧モデルで、1,NOの基質であるL-アルギニン(L-arg)の内皮細胞内での低下は、アルギナーゼ(arginase)活性の上昇による。2,内因性NO合成酵素阻害物質(NOS inhibitors)の内皮細胞内での増加は、その代謝酵素であるジメチルアルギニン・ジメチルアミノハイドロラーゼ(DDAH)活性の低下による。3,オルニチン・デカルボキシラーゼ(ODC)活性の上昇は、arginase活性の上昇とともに、肺動脈中膜平滑筋細胞の強力なmitogenであるプトレシン(putrescine)産生の増加につながる可能性が高いと考えられる。4,内皮NO合成酵素(eNOS)は、蛋白発現のみならずその活性も低下していた。5,上昇したarginase活性は、NOの中間代謝産物であるハイドロキシ・L-arg(NOHA)により回復低下する。以上の研究実績が得られた。すなわちPHの肺血管リモデリングに関与するNO合成系のdownregulationは、以前に証明したエンドセリン産生増加につながるcross talkとともに、尿素サイクルの開始酵素であるarginase活性上昇との間でcross talkが成立しており、いわゆる悪循環を形成していることが明らかになった。今回arginaseの下流にあるもう1つのオルニチン・アミノトランスフェラーゼ(OAT)を介して産生され、肺動脈外膜の主成分コラーゲンのmitogenであるプロリン(proline)産生系に関しては未知のままである。今後の本研究の展開として、肺血管リモデリングのメカニズムに上記のような悪循環が存在することから、最上流にあって、なおかつ人為的に制御可能と考えられる内因性NOS inhibitorsを減少させるDDAH活性亢進薬の開発(創薬)が、PHの根本的治療法として重要と考えられ、現在さらに実験を進めている。
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