研究概要 |
先天性甲状腺機能低下症ラットを作成しオスを選び2群に分けた:CHT群(先天性甲状腺機能低下ラットでサイロキシン(LT4)を投与する20匹)およびCH群(サイロキシンを投与しない20匹)。CHT群にLT4(1-2μg/100gBW)を投与した。10ヶ月後にと殺して甲状腺摘出と採血を行い、血中甲状腺ホルモンの測定を行った。甲状腺刺激ホルモン(TSH)値はCHT群2.82±0.75μIU/l、対照群3.3±0.60μIU/lで差は認めなかった。遊離サイロキシン(FT4)はCHT群1.84±0.07μg/dl、対照群1.64±0.07μg/dlで差はなかった。また血清総コレステロール値(CHT群100.0±6.7mg/dl、対照群100.0±9.1mg/dl)、血清クレアチニン濃度(CHT群0.36±0.05mg/dl、対照群0.33±0.08mg/dl)、血清ナトリウム濃度(CHT群140.8±0.5mEq/l、対照群141.2±0.4mEq/l)にはそれぞれ有意差はなかった。しかしBUN値はCHT群29.9±6.6mg/dl、対照群18.9±0.88mg/dlあり、有意ではなかったがCHT群で高い傾向が認められた(p=0.0862)。これらラット群の甲状腺を摘出しPAS染色で甲状腺組織の比較を行ったが、両群に差はなかった。 臨床的に生後1ヶ月から数年にわたりLT4を投与したボーダーライン先天性甲状腺機能低下症児の血清TSH, FT4は正常分泌能が確認された。臨床的にも甲状腺ホルモンの長期投与による甲状腺えの悪影響がないことが明らかになった。また真正患者のretrospective studyにより、生後1ヶ月以内から投与開始するLT4量の与量が多いほど年長になってからの発達指数が有意に高かった。ボーダーライン先天性甲状腺機能低下症乳児に対して生後1ヶ月からLT4を投与しても、その後の甲状腺ホルモン分泌能を阻害することは全く無く、むしろ成長発達を正常に保つためには不可欠との結論を得た。これらの成績に基づき、ボーダーライン先天性甲状腺機能低下症乳児に対しては生後1ヶ月から合成サイロキシン(LT4,チラージンS)を投与しても、その後の甲状腺ホルモン分泌能を阻害することは全く無く、成長発達を正常に保つためには不可欠との結論を得た。これを敷衍すべく、一般小児科医向けの臨床雑誌に、ボーダーライン先天性甲状腺機能低下症乳児の治療指針として発表した。
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