研究概要 |
はじめに:神経芽腫細胞においてはp53の遺伝子変異がほとんど同定されず、p53経路の不活化機構はp53の細胞質から核への移行の障害によると考えられてきた。しかしながらp53経路は細胞死誘導にとって最も重要な経路のひとつであり、この経路の神経芽腫細胞の細胞死における役割を明らかにすることが新たな治療法の開発に重要と思われる。 方法:SK-N-SH,SH-SY5Y,IMR32,NB-1の4種の細胞株をp53経路活性化に関与するDoxorubicin(DOXO)で処理し、時間経過に従って解析した。 結果:DOXO処理によってTrypan blue uptakeは4種全ての細胞で亢進した。特にSK-N-SH,SH-SY5Y,IMR32は処理後12hから取り込みの亢進が見られた。SK-N-SH,SH-SY5YではDAPI染色による核の断片化が12hから有意に亢進していた。FACS解析でもSub G0/G1分画がSK-N-SH,SH-SY5Yでは増加していた。 この細胞死におけるp53の役割を検討したところ、SK-N-SH,SH-SY5YにおいてWestern blottingでのp53の増加が見られた。IFによる検討では全ての細胞でp53の核への移行・増強が認められたが、特にLMR32,NB-1で顕著であった。しかしながら、p21Cip1/Waf1のDoxo投与による増加が見られたのはSK-N-SH,SH-SY5Yのみであった。 Caspase活性化をWestern blottingで検討すると、initiator caspaseではCaspase-8は活性化されなかったが、Caspase-9がSK-N-SH,SH-SY5Yにおいて活性化された。Effector caspaseではCaspase-6は活性化されず、Caspase-3/7がSK-N-SH,SH-SY5Yにおいて活性化された。 また、p53のユビキチンリガーゼであるMDM2を強制発現させたSK-N-SH亜株では、Doxo投与に対して耐性を示した。この株ではDoxo投与によるp53の集積が格段に低下していた。 考察:DOXO処理した神経芽腫細胞ではp53の核移行は程度の差はあるが保たれていた。細胞死が顕著に誘導された株ではp53下流因子が発現増強し、Mitochondria依存性Caspaseが活性化されていたことから、p53下流の因子によるMitochondriaの障害がこの細胞死誘導機構にとって重要と思われた。 p53が神経芽腫の発がん・悪性化に密接に関連していることがMDM2を強制発現させたSK-N-SH亜株を用いた実験によってさらに確認された。以上の研究によって、神経芽腫においてこれまで発がん起序・悪性化への関与が諸説あったMDM2/p53経路の重要性が示され、神経芽腫治療開発の分子標的として再考されるべきことが示された。
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