【目的】腫瘍特異抗原の同定のためには大量の腫瘍細胞の培養が必要であり、まず小児固形腫瘍の腫瘍組織から初代培養を試みた。さらに同組織から腫瘍浸潤リンパ球の増殖を試みた。 【方法】診断、治療目的で得られた腫瘍組織の一部を細切し、コラゲナーゼで消化した後5%CO_2、37℃で培養した。約1〜2週間で細胞増殖がみられたら、トリプシンで継代を行なった。増殖細胞の同定は神経芽腫では抗GD2抗体を用いてフローサイトメトリーで行なった。Ewing肉腫では、MIC2蛋白免疫染色およびEws-FIi1キメラ遺伝子発現をPcRで検出した。一方リンパ球培養は、細切組織をILr2を加えた培養液中で5%CO_2、37℃で培養した。 【結果】当院で診断、治療を行なった神経芽腫6例、Ewing肉腫2例、Wilms腫瘍1例について初代培養を試みた。全例で細胞増殖が得られ、1〜4か月にわたり3〜4回の継代が可能であった。しかし、神経芽腫では6例中2例がGD2が陰性であり、Ewing肉腫ではMIC2蛋白は陽性であったが、原発巣でEWS-Fli1キメラ遺伝子が陽性であった1例でキメラ遺伝子が検出されなかった。一方、リンパ球培養では、神経芽腫の1例で組織からリンパ球が増殖した。IL-2で刺激し十分な細胞数が得られたのち、自己の培養腫瘍細胞と共培養したが、リンパ球は反応しなかった。 【考察】臨床の腫瘍組織からの継代培養は可能であるが、正常細胞の混入が避けらない。また培養中に抗原性が変化するおそれもある。また組織からのリンパ球増殖は困難で、腫瘍抗原に感作されたリンパ球は同定できなかった。以上から、本法を用いて腫瘍抗原を同定することは困難であると思われた。 ついで樹立された神経芽腫細胞株NB16を用いた。健常ドナーの末梢血から増殖させたIL-2反応性の活性化リンバ球を細胞株で感作し、腫瘍細胞を認識しうるかどうかを検討した。しかし、これによっても腫瘍反応性のリンパ球は得られなかった。これは細胞株とドナーのHLAが一致していない、すなわちHLA拘束性であること、あるいは腫瘍細胞が認識されうる抗原を発現していないか、免疫応答を抑制するなんらかの機序が作用していること等が推測された。
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