研究概要 |
マウス前脳基底部コリン作動性神経系起始核を新生仔期に電気的障害を加えると、大脳皮質の一過性コリン作動性神経系細胞の消失と、大脳皮質神経細胞構築の永久的な改変、認知能力の永続的な変化を来すことが我々の以前の研究によって明らかになってきた。マウス前脳基底部コリン作動性神経系起始核を新生仔期に障害すると、大脳皮質可塑性にどのような影響を及ぼすか、について調べた。新生仔期の前脳基底部コリン作動性神経系起始核の障害により、大脳皮質のAChE染色性の低下を認め、コリン作動性神経線維の一過性の消失を認めた。それと同時に、バレル可塑性は低下した(Johnstom, et al.,2001,Nishimura, et al.,2002)。また、生後6か月には前脳基底部コリン作動性神経系起始核のニューロンが変性し始めるTs65Dnマウス(Holtzman, et al.,1996)のバレルの面積低下が判明した。これらの結果から、コリン作動性神経系入力が大脳皮質バレル野の発達と可塑性に重要な役割を演じていることが示唆された。さらに、SSRIの一種であるparoxetineをラットの周産期に投与した実験では、体性感覚野のおけるセロトニン量・patchのサイズ・正向反射について検討し、生後一過性に視床皮質線維に発現するセロトニントランスポーターの役割について考察した。結果は、セロトニン量の低下、patchの面積の低下および、正向反射の成立遅延を認めた。このことから、発達期大脳皮質体性感覚バレル野の形態学的発達にとってセロトニンの視床皮質線維への取り込みが重要な役割を演じていると思われ、この際、セロトニン含有量が減少していることが判った。こういった、モノアミンやアセチルコリンなどの神経伝達物質を量的に変化させたときに、大脳皮質の発達が改変を受け、ひいては、可塑性も変化する可能性があると考えられた。
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