本研究の目的は、内皮細胞増殖因子(VEGF)が肺血管床に対して血管新生作用を有するかどうかを解明し、肺動脈低形成を伴ったチアノーゼ性先天性心奇形への臨床応用の可能性を明らかにするため、実験動物による肺動脈低形成モデルの作成と、モデルへの内皮細胞増殖因子(VEGF)の作用について検討した。 実験は家兎を用いた。ケタラールおよびセラクタールによる麻酔を施行し鎮静させた後、挿管・人工呼吸管理として安定させた。キシロカインによる局所麻酔を追加した後、左第3肋間開胸を行い、巾5mmのGore-Tex sheetを用いて左肺動脈絞扼術を施行した。手術侵襲から回復し安定した時点で、肺動脈造影を施行し、左肺動脈絞扼部の血流の減少が確認された。このモデルに対し「VEGF組換えタンパク質」を投与し、右心室、肺動脈の圧計測およびFick法による心拍出量の計測、造影を施行し、血管増生について検討した。 今回の肺動脈低形成モデル群と対照群との比較では、VEGFによる肺血管床の有意な発育は確認できなかった。 過去の報告で、低酸素状態がVEGF産生の主要な刺激因子であることは知られており、特に小児循環器領域では、チアノーゼ性心疾患でVEGF血中濃度が有意に高いことが報告されている。今後作成した動物モデルの肺血管床へVEGFを作用させるための、投与方法や投与量などについて再検討する必要があると思われた。
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