22q11.2欠失症候群は、高率に先天性心疾患を合併する染色体微細欠失症候群である。近年、動物モデルを用いたいくつかの研究により、転写因子TBX1が本症候群の心疾患発症に中心的な役割を果たすことが示唆された。本研究の目的は、先天性心疾患の発症に関与するTbx1の発現調節分子機構を明らかにすることである。Tbx1遺伝子上流の調節領域をlacZレポーター遺伝子に連結したトランスジーンを用いて作製されたトランスジェニックマウスでは、内因性Tbx1の発現と同様にlacZが発現することが確認された。初期発生において様々な因子の発現を調節する分泌因子であるソニック・ヘッジホッグ(Shh)によって、Tbx1の発現がどのように調節されているか、胎生初期から時間経過を追って明らかにするため、ShhノックアウトマウスとTbx1-lacZトランスジェニックマウスを交配した。Shhホモ変異・Tbx1-lacZトランスジェニックマウスの胎生9.0〜10.5日胎仔を解析した。その結果、胎生9.25日までのTbx1の発現は、Shhシグナルが存在しなくても導入されるが、胎生9.5〜10.5日までのTbx1の発現はShhに依存することが判明し、Shhが心大血管形態形成の臨界期におけるTbx1の発現維持に必要であることが示唆された。さらに、Shhノックアウトマウスでも、Tbx1ノックアウトマウスと同様の大動脈弓奇形が認められることを明らかにした。バイオインフォマティックスを利用し、単離したTbx1遺伝子の上流転写調節領域の塩基配列上に、Shhが直接的に発現を調節する下流転写因子であるGliタンパクが結合する配列があるかどうか検索したが、Gli転写因子結合配列は発見されなかった。しかし、Tbx1の発現制御に関与するforkhead型(Fox)転写因子の結合部位を特定することに成功した。
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