22q11.2欠失症候群は、高率に先天性心疾患を合併する染色体微細欠失症候群である。近年、動物モデルを用いたいくつかの研究により、転写因子TBX1が本症候群の心疾患発症に中心的な役割を果たすことが示唆された。本研究の目的は、先天性心疾患の発症に関与するTbx1の発現調節分子機構を明らかにすることである。まず、Tbx1遺伝子ゲノム上流の調節領域を特定し、Shhが心大血管形態形成の臨界期におけるTbx1の発現維持に必要であることを示した。さらに、Shhノックアウトマウスでも、Tbx1ノックアウトマウスと同様の大動脈弓奇形が認められることを明らかにした。次に、バイオインフォマティックスを利用し、Tbx1のゲノム上流調節領域に、種を越えて保存されたForkhead型(Fox)転写因子の結合配列があることを発見した。この配列について、ゲルシフトアッセイ、ルシフェラーゼ・レポーターアッセイなどを用いて解析した結果、Forkhead型転写因子の中で、Foxa2、Foxc1およびFoxc2が、このTbx1遺伝子上流のFox結合配列に結合し、Tbx1の転写を直接活性化することが判明した。Foxc1およびFoxc2のノックアウトマウスでも、Tbx1ノックアウトマウス、Shhノックアウトマウスと同様の大動脈弓奇形が認められる。また、Tbx1の発現は、Foxc1およびFoxc2ノックアウトマウスで低下しており、Foxc2の発現は、Shhノックアウトマウスの咽頭弓で低下していた。以上のことから、心臓・大血管の形態形成には、Shh-Fox-Tbx1によって制御される分子機構が重要な役割を果たすことが示唆された。したがって、Shh、Foxa2およびc1/2はTbx1の上流因子として、その発現を調節することにより、22q11症候群に合併する先天性心疾患の発症に関与する可能性があるとの結論を得た。
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