研究概要 |
欠神発作は意識減損と突然の行動停止を主徴とする特発性全般てんかんである。これまでの研究により、欠神発作とくにspike and wave discharge(SWD)は視床・皮質律動機構の異常によって引き起こされることが明らかとなっている。最近の研究は、過分極賦活型(HCN)チャネルがこの欠神発作誘発神経機構と密接に関与している可能性を示唆している。本研究では、以下の3つの実験により、欠神発作発生に対する過分極賦活型チャネルの抑制作用を明らかにした。 1.過分極賦活型チャネルの阻害薬であるZD7288の脳室内投与は、γ-butyrolactone(GBL)により誘発された欠神発作と同様の欠神発作を誘発した。すなわち、ZD7288(500μM以上,4μL,i.c.v.)は、3-6HzのSWDsを伴う突然の行動停止を頻繁に引き起こした。 2.扁桃核キンドリング焦点形成が完成した動物を用いて、キンドリング発作(後発射)の持続時間に対するZD7288脳室内投与の効果を検討した。ZD7288(500μM,4μL)脳室内投与は投与の30分後に誘発した後発射の持続時間に有意な作用を及ぼさなかった。 3.遺伝的欠神てんかんラット(SER)を用いて、HCNサブユニットの1つであるHCN2タンパクの発現を免疫組織学的に検討した。その結果、SERの視床ではコントロール群と較べてHCN2陽性細胞数が有意に減少していた。また、正常Wistar系ラットでGBLにより欠神発作を誘発すると、HCN2タンパク発現の著しい増加が認められた。 以上の結果は、過分極賦活型チャネルが欠神発作の発生に対する特異的な内在的防御機構として機能していることを示している。また、この過分極賦活型チャネルは、1回の欠神発作によってもその発現が著しく増強されるという神経可塑性を有することが明らかとなった。
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