近年、悪性リンパ腫におけるCD95(Fas)の遺伝子異常や発現消失、あるいはcaspase3の活性化と予後との関連性が相次いで報告されたが、その分子機序の詳細は未だ明らかではなく、また、これらの報告で用いられた症例の治療プロトコールも同一ではない。本研究は小児悪性リンパ腫症例の化学療法抵抗性獲得機序の解明と小児難治性リンパ腫におけるトランスレーショナルリサーチの確立を目的としており、今年度は特に、本研究の遂行と達成に極めて重要な研究基盤である同一プロトコールで治療された小児悪性リンパ腫症例の収集とデータベース化に比重を置いて進めた。小児白血病研究会中央病理診断システムによって、病理組織学的・分子生物学的解析、ならびに予後や生存率などの臨床情報と関連づけた多角的解析が可能な試料として、既に合計50例の臨床検体の集積が完了しており、その内訳は寛解導入症例37例、寛解導入不能症例8例、予後未決定症例5例である。収集した症例については、アポトーシスのシグナル経路や細胞周期に関連する既知遺伝子、ならびに多剤耐性遺伝子などの発現について、RT-PCR法を用いた検索を進めている。さらに、未知の関連遺伝子群の単離・同定を可能とすべく、マイクロアレー法による網羅的発現解析の準備を進めつつある。 今後は今年度の研究の継続を図りつつ、収集した症例の網羅的発現解析を進め、寛解導入症例群と寛解導入不能症例群の間で発現変化を認めた候補遺伝子について、各症例の組織型や生存率などの臨床病態と関連づけた選別を行い、小児悪性リンパ腫症例における化学療法抵抗性獲得に関与する新規関連遺伝子群や未知の分子機序の同定を試みる。
|