研究概要 |
若年性ネフロン癆の中には、網膜色素変性症を伴うもの(Senior-Loken症侯群)がある。これまでに、腎外症状を伴わない若年性ネフロン癆における責任遺伝子座位(NPH1)が、2番染色体上に存在することが明らにされたが、Senior-Loken症候群と髄質嚢胞腎ではNPH1に連鎖を示さなかったことから、最近ではそれぞれ別の病態ととらえる傾向にある。すなわちSenior-Loken症候群と髄質嚢胞腎では、同様の腎症状を起こす遺伝子が、NPH1以外に存在することを示唆する。若年性ネフロン癆の腎組織において、抗TBM抗体を用いた免疫染色では、近位尿細管基底膜細胞外基質の染色性が低下しており、若年性ネフロン癆の発症にtubulointerstitial nephritis antigen(TIN-ag)の異常が関与している可能性が指摘されている。我々は最近、ヒトのTIN-agをコードする、54kDaの非コラーゲン性の糖蛋白を単離し,その配列を同定した。また、ヒトTIN-agは、chromosome 6p11.2-12上に局在することを明らかにした。興味あることに、このchromosome 6p11.2-12近傍には、網膜色素変性症の責任遺伝子も存在する。すなわち、網膜色素変性症を伴う若年性ネフロン癆(Senior-Loken症候群)の責任遺伝子は、網膜色素変性症の責任遺伝子を含めたこの染色体上に位置するTIN抗原をコードする遺伝子異常である可能性が強く考えられるため、この研究により、Senior-Loken症候群の遺伝子異常の検索を計画した。その結果、1家系の網膜色素変性症を伴う若年性ネフロン癆において、腎組織上のTIN-ag蛋白の発現低下とTIN-ag遺伝子に相当する1.2-kbの増幅産物の欠失が証明された。また、患者白血球から分離したcDNAを用いた検討では、患者、正常者ともにPCR増幅産物が得られなかったことから、TIN-ag遺伝子は、腎固有に発現する特異遺伝子であるというmultiple Northern blot法での成績が裏付けられた。最近、常染色体劣性遺伝を示す網膜色素変性症の新たな責任遺伝子が、TIN-ag遺伝子の存在するchromosome 6p近傍に存在することがlinkage analyslsで証明されたことより、この家系では、この遺伝子も巻き込んだ隣接遺伝子症候群である可能性があり、TIN抗原の異常は、新たな若年性ネフロン癆の責任遺伝子の一つである可能性が示唆された。
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