一群のリソソーム病に対する治療薬を開発するため、リソソーム病群の中で最も発生頻度が高いファブリー病(α-ガラクトシダーゼ欠損症)をモデルとして研究を行った。まず、MNN4遺伝子が恒常的に発現するSaccharomyces cerevisiaeのOCHIとMNN1遺伝子を破壊した酵母株を作製して、これにヒトのα-ガラクトシダーゼcDNAを導入して、組み換えヒトα-ガラクトシダーゼを生産した。この酵母株で作られたα-ガラクトシダーゼの糖鎖を、α-マンノシダーゼで修飾し、糖鎖の非還元末端にマンノース-6-リン酸残基を露出させた。この酵素を用いて、ファブリー病患者由来の培養線維芽細胞とファブリー病モデルマウスに対する効果を解析した。まず、本酵素をファブリー病患者由来の培養線維芽細胞の培養液中に加えた所、濃度依存的に細胞内酵素活性値の上昇が認められ、0.5 microgram/mlの添加により、欠損していた酵素活性は正常域に達した。また、酵素添加後1日で、患者細胞のリソソーム内に蓄積していた糖脂質セラミドトリヘキソシドは減少し、その効果は、1週間以上続いた。この酵素を、ファブリー病モデルマウスに週1回の割合で合計4回に渡り経静脈投与した。その結果、ファブリー病モデルマウスの肝臓、腎臓、心臓および脾臓に過剰に蓄積していたセラミドトリヘキソシドの量が、それぞれ非投与マウスの2%、72%、28%および31%に減少した。セラミドトリヘキソシドに対するモノクローナル抗体を用いて、これらの臓器組織の間接免疫染色を行った所、いずれにおいても、酵素投与により染色性の著しい減少が示された。酵素非投与群の臓器組織において電子顕微鏡で観察された多数の封入体も、酵素投与群では、その数が大幅に減少したことが確認された。酵素の反復投与により、酵素に対する抗体価の有意な上昇はみられなかった。酵母で産生したα-ガラクトシダーゼは、ファブリー病治療薬として有望と考えられる。この方法は、他のリソソーム病治療薬開発にも応用できると期待される。
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