研究概要 |
1.研究症例 我々は、全国の医療機関より依頼を受け、これまでに急性脳炎59例、急性脳症6例の血清・髄液(約250検体)において、GluRε2(ε2)、GluRδ2(δ2)自己抗体を測定してきた。方法はε2、δ2を遺伝子組換えによりNIH3T3細胞内に合成させ、そのホモジネートを抗原として自己抗体(IgG、IgM分画)を判定する方法(Y Takahashi, et al. Neurology 2003)を用いた。 2.結果 急性脳炎・脳症と診断され髄液を検索し得た43例を、神経症状発症様式から限局脳炎(L=病初期に意識障害がほとんどなく、精神症状、幻覚、単発のけいれん発作などで発症するもの)と、全脳炎(W=病初期より意識障害が著明なもの)に分類した。さらに予後について、軽度の認知障害のみでADL障害のほとんど見られない治癒群(C)とてんかん発作などのある後遺症群(S)に分類した。発症年齢は、LC,34.7±16.8 (n=19) LS,22.3±28.4(n=3) WC,19.8±2.5(n=6) WS,6.3±6.9(n=15)と全脳炎型は若年者に多く、s群は若年に多く、後遺症が若年発症の脳炎に多い事が分かった。髄液中のε2抗体はW群では有意に予後不良群(WS)に高頻度であったが、血・髄液中のδ2抗体はLC/LS、WC/WS間で有意差はなかった。髄液中ε2抗体の出現日は、LC(13.2±9.0日)群ではWS (74.8±120.6日)群より有意に早く、L群は早期に抗体ができているのに対し、W群は慢性期にできている事が分った。発症年齢とε2抗体の形成には一定の傾向はなかった。 3.考察 GluRε2抗体は、L群では発病初期に形成され発病に関与し、W群では慢性期に形成され予後を示唆する可能性がある。
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