ウィリアムズ症候群(WS)においては認知機能のばらつきが大きいことが知られているが、顔の認知をはじめとする視覚認知腹側経路の機能は、運動や位置の知覚にかかわる背側経路に比して比較的保たれているとされている。顔の認知に関して健常者では正立顔に対しては構成要素の空間的位を相対的に判断するconfigural processingが、倒立顔に対しては顔の個々の構成要素に着目するlocal processingが行われており、倒立顔は正立顔に比して処理に時間がかかる(倒立効果)とされている。本研究では脳磁図を用い、顔認知メカニズムを健常者のそれと比較検討した。13歳WS患者に対して左半視野に正立顔、倒立顔の顔刺激を提示した際の脳磁場反応を測定した結果、正立顔、倒立顔の両刺激に対して顔認知特異成分とされる2M成分を認め、その推定反応部位は正立顔、倒立顔とも健常成人のそれと変わらなかった。また、正立顔に対する同成分の頂点潜時は健常者のそれと変わりがなかった。以上より、正立顔に対する神経生理学的な反応は健常者と変わりがないことが明らかになり、正立顔の認知メカニズムは健常と同様であると考えられた。しかしながら倒立顔に対する反応では健常者との差を認めた。すなわち、健常成人においては倒立顔に対する2M成分の頂点潜時は正立顔に対するそれよりも延長する傾向にある(倒立効果)のに対し(Watanabe et al 2003)、本被検者においては倒立顔に対する潜時のほうが正立顔に対する潜時よりもむしろ短縮しており、倒立効果を認めない結果となった。倒立顔に対する反応が早いことは、WSを持つ本被検者の認知特性である、「空間的配置」よりも「細かい構成要素の形態」に着目しがちな点と関連する可能性が示唆された。WSに共通する所見か否か更なる検討が必要である。 本研究成果はneurocaseに投稿中である。
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