様々な組織において細胞の運命の決定から増殖や分化の制御に重要な働きを有しているNotch1は、表皮では細胞増殖を抑制して分化を促進する働きを持っている。しかしNotch1は基底層でも発現しているものの、基底細胞は未分化な状態で活発に増殖を続けている。そこで基底細胞ではNotchの働きを抑制して細胞を未分化な状態に維持する特異的な機構が存在するのであろうと予想した。私たちは今回の研究を通してある種の転写因子が表皮基底層を中心に発現してNotchのシグナルを抑制することを見いだした。この転写因子は通常、表皮の基底層を中心に発現しているが、表皮細胞に過剰発現するとNotchの作用を抑制した。その結果、未分化な細胞で発現するintegrinsを高発現し、さらにintegrinsのシグナルの下流で働くことが知られているERKの活性を高めることがわかった。その一方で、この転写因子はNotchのシグナルとは独立に表皮細胞の分化をある程度促進する働きをも有することがわかった。つまり、この転写因子はある面でNotchを抑制して未分化な状態を維持する作用がある反面、他方でNotchとは無関係に分化を促進する働きが有していた。この転写因子がどのような機構で表皮細胞の増殖分化を制卸しているのか転写因子の構造解析を進めた結果、転写因子の中央の部分とC末端の部分がおのおの重要な役割を持っていることが明らかになった。さらに各々の部分がどのような機序で細胞の制御に関わっているのか変異を加えた分子を細胞に導入して解析を進めた。
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