NMDA受容体拮抗薬であるフェンサイクリジン(PCP)は、ともに統合失調症様の精神症状をひきおこす乱用薬物である。この変化を包括的に把握し、統合失調症様の精神症状に関与する遺伝子を絞り込む目的で、本研究では、serial analysis of gene expression (SAGE)法を用いて、生理食塩水(1ml/kg)およびPCP(10mg/kg)を腹腔内投与した1時間後のラット大脳皮質由来のcDNAライブラリーを解析した。その結果、2つのcDNAライブラリーから解析されたtagの総数は約5万ずつ(合計約10万)で、tagの種類は約18000種類ずつであった。2群間の比較から、216種類のPCP反応性tag(うち、120種類が発現増加、96種類が減少)を同定した。 その中で、優位に発現増加が認められたtransthyretin (TTR)遺伝子多型について関連研究を行った。対象は日本人の統合失調症患者70名(男性33名、女性37名、平均年齢64.5±9.2歳)と健常者101名(男性23名、女性78名、平均年齢37.4±15.0歳)で、TTR遺伝子のpromoter領域(5'-UTRより約1.5k上流まで)および4つのすべてのexon領域の計5領域をdirect sequence法で解析した。TTRは、約40%が血中のレチノール結合タンパクと結合してビタミンAの輸送をし、約1%が血中の甲状腺ホルモン脳内に輸送する働きをもつ肝臓や脳の脈絡叢で合成されるタンパク質といわれているが、今回の研究では残念ながら統合失調症とTTR遺伝子の関連は認められなかった。今後は、さらに本研究で病態への関与を示唆された候補遺伝子の中から成因遺伝子を絞り込みたい。
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