研究概要 |
近年、非定型抗精神病薬は統合失調症の薬物療法の中心として用いられるようになったが、耐糖能異常、高脂血症、肥満などの薬剤誘発性の副作用は、非定型抗精神病薬において特に発現頻度が高いと推測されている。しかしこれらの副作用発現のメカニズムについてはいまだ不明な点が多く、現時点では副作用発現を予測しうる臨床上有益な遺伝子マーカーは見出されていない。 そこで我々は、非定型抗精神病薬olanzapine、perospironeを対象薬とし、それらで治療を受けている統合失調症患者を対象に、耐糖能異常、高脂血症、肥満などの副作用に関連していると思われるドーパミンD2、β2、3アドレナリン受容体の遺伝子変異について解析し、これらの副作用発現との関連についての検討をおこなった。 現時点において50症例の臨床データ、血液サンプルの収集を完了し、olanzapine、perospironeそれぞれのサンプルについて、これまでに耐糖能異常、肥満とドーパミンD2受容体のTaq1A、-141 Ins/Del多型、β2アドレナリン受容体のArg16Gly, Gln27Glu変異、β3アドレナリン受容体のTrp64Arg遺伝子多型との関連について検討した。その結果、perospirone開始後に発現した耐糖能異常において、肥満および2型糖尿病の発症リスクを低下させるβ2アドレナリン受容体のGly16変異アレルをもたないという遺伝的脆弱性と、肥満が存在することが重要な因子である可能性が示唆された。またolanzapineにより著しい体重増加をきたした症例が認められ、こうした症例に特異的な遺伝的多型の検索が重要であると考えられた。 今後は症例数をさらに増やし、包括的薬理ゲノム解析を進めることにより、臨床上有用な情報となりうる、耐糖能異常、肥満に関連する遺伝的背景因子の獲得が期待できる。
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