研究概要 |
神経ステロイド・アロプレグナノロン(ALLO)生合成系障害の病態モデルとして隔離飼育ストレス(IS)負荷マウス(IS群)を用い,GABA神経機能調節及び神経精神性病態発現における内因性ALLOの役割を検討した。GABA受容体拮抗薬誘発痙攣に対する感受性の変化を指標に,脳内ALLO量を減少させるIS及びALLO生合成阻害薬SKF105111(SKF)処置の影響を調べた結果,何れの処置もGABA受容体拮抗薬誘発の痙攣閾値を低下させた。閾値低下は低用量のALLOの投与により抑制された。マウス大脳皮質錐体細胞におけるGABAの作用強度およびGABA作動性シナプス伝達の効率はSKF処置により有意に低下した。一方,IS群の神経精神性病態の指標として攻撃行動発現におけるALLOの役割を検討した。IS群の攻撃行動発現時間は隔離飼育期間の長さに依存して増加し、4-8週間後にはほぼプラトーに達した。IS群の攻撃性は脳内ALLO量の減少とほぼ逆相関性に亢進し、ALLO投与により抑制された。対照となる群居飼育マウス群では、SKFで脳内ALLO量を減少させても攻撃行動は発現しないことから、内因性ALLOは攻撃行動の抑制性因子として働いている可能性が示唆された。セロトニン(5-HT)再取込み阻害薬フルオキセチンの立体異性体(S-及びR-体)は同程度の5-HT取込み阻害活性を示したが、それらのALLO量を正常化させる効果及び攻撃行動抑制効果に関しては、S-体がより強力であった。これらの実験成績から,正常動物におけるGABA-A受容体機能は内在性ALLOにより上方性制御されていること及び隔離飼育ストレス負荷動物では脳内ALLO量の低下が攻撃性の発現・亢進に関与している可能性が示唆された。
|