研究概要 |
【はじめに】統合失調症の発症には遺伝的要因の関与が想定されており,発症脆弱性遺伝子の検索が近年精力的に行われている。クロモグラニンは神経細胞にも広く分布する酸性可溶性蛋白であり,統合失調症患者においては脳脊髄液中のクロモグラニンA, Bの濃度の有意な減少や死後脳海馬細胞においてクロモグラニンB密度の減少が示され,統合失調症の病態生理への関与が想定されている。われわれはクロモグラニンB遺伝子と統合失調症との間の有意な関連を報告しているが,クロモグラニンAとの関連研究についてはまだほとんど報告がみられない。今回われわれはクロモグラニンA遺伝子が統合失調症と関連しているのかどうかについて検討した。【対象と方法】対象は本研究の説明と同意を文書にて得た日本人統合失調症(DSM-IV)患者380名と性別・年齢を一致させた日本人健常者364名である。dbSNPに登録されたクロモグラニンA遺伝子の10個の多型について,96名の健常者で連鎖不平衡解析を行い,ハプロタイプの約90%をカバーし得るSNPをハプロタイプtagSNP (htSNP)として選出し,PCR-RFLP法およびPCR-ダイレクトシークエンス法を用いて各遺伝子型を決定し,各SNPおよびハプロタイプ頻度の症例対照群間比較検討を行った。なお,本研究は名古屋大学倫理委員会の承認を得て行っている。【結果と考察】今回検討した多型部位について,症例群および対照群の遺伝子多型の頻度分布は,Hardy-Weinbergの平衡法則から期待される理論分布値と有意な差はみられなかった。10個の多型の中からhtSNPとしてrs9658635,rs729940を選んで解析したところ,両多型との間に有意な関連が認められ,ハプロタイプ解析でも強い関連が認められた。以上の結果からクロモグラニンAは統合失調症の発症に関与している可能性が示唆された。
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