本研究では新規抗うつ薬であるパロキセチン(PAX)が投与されているうつ病患者を対象にPAXによる「個体重視オーダーメイド的薬物療法」の開発をめざした。平成15年度は(1)PAXの臨床効果にserotonin transporter(5-HTTLPR)の1・s多型が及ぼす影響、(2)副作用出現に5HTTLPRの1・s多型の及ぼす影響について検討を行った。5-HTTLPRの1/s遺伝子型(n=5)、s/s遺伝子型(n=9)の両群で、PAX投与後ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)評価点は開始時に比べ改善を示したが、両遺伝子型群間で各時点でのHAM-D評価点、HAM-D改善率には有意差は認められなかった。PAXで治療中に何らかの副作用を認めた25人のうち約40%が1/s遺伝子型(n=10)、副作用を認めなかった30人のうち約17%が1/s遺伝子型(n=5)であった。平成16年度では5HTTLPR遺伝子のintron 2のvariable number of tandem repeats(VNTR)多型、serotonin 2A receptorの-1438 A/G遺伝子型とPAX投与中の副作用出現の関連について検討を行った。PAXで治療中に何らかの副用を認めたのは24名で、認められた主な副作用としては、嘔気・胃痛(10.3%)、便秘(10.3%)、下痢(8.6%)などがあった。副作用が出現した群(24名)と副作用なしの群(33名)の間で、性別、年齢、体重、PAX1日用量、PAX血漿中濃度に有意な差は認められなかった。VNTR多型に関しては、嘔気・胃痛、便秘、下痢といった消化器系副作用が出現した13名では、遺伝子型は全例12/12であり、10アレルの保有者は認められなかった。-1438A/G多型については、消化器系副作用ありの群となしの群で差は認められず、VNTR多型が関連する可能性がある。
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