研究課題
基盤研究(C)
complexin IIは統合失調症死後脳の研究において減少していることから、統合失調症の発症原因蛋白のひとつとして考えられている。complexin IIの遺伝子欠損マウスを用いてその生理学的特性と、ストレスに対する脆弱性を調べた。ストレスとしては母子分離モデル(子マウスを生後2日から16日までの間毎日一時間母親から分離して飼育する)を採用した。生理学的特徴としては海馬スライス標本を用いてそのCA1領域より、興奮性シナプス後電位を電気生理学的に測定し、また水迷路試験により空間学習機能を測定した。その結果以下の事実が判明した。遺伝子欠損マウスは野生型のマウスと比べて生理学的な異常は認められなかった。また母子分離ストレスを与えた野生型マウスの群では生理学的な機能に異常は認められなかった。ところが母子分離ストレスを与えた遺伝子欠損マウスの群では以下の生理学的な特徴が認められた。(1)基本的なシナプス反応には異常が認められなかった。(2)前シナプスに高頻度電気刺激を与えると前シナプスより伝達物質の放出が一過性に上昇するが、この放出が低下した。(3)代表的なシナプス可塑性である長期増強現象(LTP)がほぼ抑制された。また長期抑圧現象(LTD)においては異常は認められなかった。(4)水迷路試験では空間学習の低下が認められた。(5)回転運動学習では異常が認められなかった。以上の結果より次の結論が得られた。(1)遺伝子欠損マウスは発育や生理学的特徴において異常を示さない。(2)母子分離ストレスを与えると、野生型マウスでは異常が認められなかったが、遺伝子欠損マウスではシナプス可塑性や空間学習機能など、主として海馬が重要な役割を果たしていると考えられている脳機能が低下することが判明した。(3)小脳機能を代表する運動学習においてはいずれの群でも異常は認められなかった。これらの観察よりcomplexin II遺伝子欠損マウスは母子分離ストレスに対してその成長過程でストレス脆弱性を示すことが示唆された。
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