研究概要 |
交代性睡眠相変位症候群の主要病態である「卵巣ホルモン依存性位相変位」メカニズムを調べた。体内時計の発振メカニズムは時計遺伝子の転写翻訳フィードバックループによってもたらされるので、エストロジェン(E)がSCNの時計遺伝子の発現を変えることによって周期を短縮するとの仮説をたて、体内時計中枢である視交叉上核(SCN)の時計遺伝子(Per1,Per2)発現に対するEの効果を検討した。その結果、EはSCNに発現するPer2の概日リズム位相を前進させ、振幅を減少させた。一方、視交叉上核のPer1の概日リズムはEによって影響されなかった。以上のことから、EはPer2遺伝子に作用し、周期を短縮している可能性が示唆された。最近、睡眠相前進症候群を示す家系でPer2遺伝子変位が見出され、Per2ノックアウトマウスでも周期が短縮することが報告され、われわれの結果と良く一致することがわかった。 次に、EがいかにPer2遺伝子発現を制御しているかを調べた。EはE受容体に結合し、転写共役因子の作用の元に直接、標的遺伝子上のERE(estrogen responsive element)に結合し転写を制御する。そこで、転写共役因子SRC-1,SRC-2,SRC-3)mRNAの視交叉上核における発現を検討したところ、SRC-1,SRC-2は視交叉上核に発現するが、SRC-3は視交叉上核に発現しないことが明らかになった。一方、Per2遺伝子発現はCLOCKとBMALによってポジティブに制御されていることが知られている。そこで、SRC-1とCLOCKやBMALへの結合能を調べたところ、SRC-1はCLOCKと結合するが、BMALとは結合しないことがわかった。かくて、EはERE上のSRC-1とE-box上のCLOCK相互作用を変えることによって、Per2遺伝子発現を調節している可能性が示唆された。
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