本研究では、ベータアミロイド蛋白(以下Aβ)の神経細胞障害の原因に関与するとされるフリーラジカルの発生をElectron Paramagnetic Resonance (EPR)法を用いて確認し、ラミニンという細胞外マトリックス成分がAβの細胞障害性に対してどのように寄与するのかについて検討した。ラミニンは組織障害、細胞障害時に導引されることが知られ、アルツハイマー病の特徴的な病理所見の一つである老人斑にもその存在が確認されている。 しかし、何故に存在しているのかについて詳細に検討された研究はあまり無いためフリーラジカルという細胞障害性の高いものに対する影響を検討し、Aβによる細胞障害を抑制するかについてそして治療薬になり得るかを検討した。 1)Aβを培養細胞に添加すると細胞障害性の高いヒドロキシルラジカルが発生し細胞障害性の生化学的な指標となる脂肪酸ラジカルの発生も確認した。 2)ラミニンにはヒドロキシルラジカルを消去する活性があることを確認した。 3)Aβとラミニンを混和して培養細胞に添加すると細胞障害性の高いヒドロキシルラジカルの発生が抑制されることを確認した。 4)Aβとラミニンを混和して培養細胞に添加するとAβのみを添加した場合に比較して細胞の生存率が有為に高くなることを確認した。 5)ラミニンはアルツハイマー病の治療薬になり得る可能性を秘めているが、ラミニンは900KDaの巨大糖蛋白物質であり経口、血管内投与は脳実質への移行を考えると問題があるため今後ラミニンの中でも有用な低分子構造を検索していく必要があるものと考えられた。
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