我々は、ミトコンドリア複合体Iのサブユニットをコードする核遺伝子、NDUFV2について、双極性障害との関連を調べた。培養リンパ芽球でNDUFV2遺伝子の発現量を測定したところ、健常者群に較べて双極性障害群で顕著に発現量が低下していることを見出した。このため遺伝子発現に関与する上流調節領域について多型検索を行い、同領域に存在する複数の遺伝子多型が双極性障害と関連していることを認めた。さらにこれらの遺伝子多型より構成されるハプロタイプが日本人で双極性障害と関連することを見出した。この所見は米国人サンプルにおいても確認された。 さらに、ミトコンドリア複合体Iの他のサブユニットに関しても、双極性障害との関連がある可能性を考え、多数のサブユニット遺伝子について、培養リンパ芽球で発現量の相対的定量を行ったところ、ほとんどの遺伝子に関して、健常者サンプルに較べて双極性障害患者で低下していることを見出した。しかし、これらの遺伝子発現量はNDUFV2の発現量と相関しており、最も顕著な低下が見られたのはNDUFV2であったことから、NDUFV2の遺伝子多型による発現量低下が、他のサブユニットに影響していると考えられた。 また、我々は、以前に双極性障害との関連が報告された、ミトコンドリアDNA10398多型について、双極性障害治療薬との反応性を調べた。その結果、ミトコンドリアDNA10398A多型を持つと、双極性障害の治療薬の一つである炭酸リチウムに対する治療反応性が良いことを見出した。
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