研究概要 |
ヒト末梢血リンパ球は、放射線に対して高い感受性を示し、このことがヒトを含めた脊椎動物が5 Gyという比較的少ない放射線量の全身照射により死亡する(骨髄死)大きな原因となっている。末梢血リンパ球は通常は分裂・増殖は行わず、また、未分化でもないことから、その放射線高感受性のメカニズムについては、これまでの放射線生物学の概念にあてはまらないものとして、その解明が期待されてきた。従来から、細胞に対するエックス線やガンマ線等の低LET(linear energy transfer)放射線の作用のうち3分の2は、細胞に含まれる水を介してフリーラジカルやハイドロキシルラジカル等の活性酸素種(ROS, reactive oxygen species)の産生が起こり、これによる酸化的DNA損傷によって発揮されるものと考えられてきた。しかしながら、この点については未だ実際に証明されるに至っておらず、今回、私達はヒト末梢血リンパ球に対する放射線照射によるフリーラジカル産生〜酸化的DNA損傷およびこれらを制御することを目的として研究を行った。 末梢血Tリンパ球は、5 Gy照射直後より細胞内での著明な活性酸素産生を示し、照射6時間後には酸化的DNA損傷を来たし、10時間後にはミトコンドリア膜電位変化を生じ、続いてAnnexin V陽性(初期アポトーシス)、24時間後にはPropidium iodide陽性(後期アポトーシス)となることを示した。さらに、照射1時間後には、リソソームの変化を来たしていることを見出した。このことから、抗酸化作用の弱い細胞ではリソソームは放射線照射によって発生したヒドロキシルラジカルの影響を受けやすく、そのために放射線に対して高い感受性を示すものと考えられた。
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