研究概要 |
急性心筋梗塞において、発症後早期から慢性期にかけて左室健常(remote normal)部心筋にリモデリング(遠心性拡大と壁肥厚)が生じ、患者の生命予後の悪化に関与することが知られている。そこで左室リモデリングの病態を心筋酸素代謝面から検討することを試みた。我われはすでに、梗塞亜急性期には左室リモデリングによる壁応力増加の影響を受けて心筋酸素代謝がremote normal領域において亢進を来たしていることを報告してきた。今回、慢性期リモデリング心のremote normal領域心筋酸素代謝が、むしろ低下していることが心不全を招来する原因ではないかとの仮説を検証した。 「対象と方法」糖尿病合併心筋梗塞8例、糖尿病非合併心筋梗塞10例(いずれも1枝病変症例)、健常者6例を対象に、心筋酸素代謝をC-11 acetate PETにより、梗塞患者ではremote normal領域、健常者では左室壁全体で計測した。また、心エコー図により左室容積、左室駆出率を得た。酸素代謝は、C-11 acetate静注後のクリアランスカーブをmonoexponential fittingすることによりKmonoを求め検討した。さらに、検査時の心拍数、収縮期血圧からheart rate-pressure product(RPP)を計算し、Kmonoに対する心臓の作動状態を補正する目的でKmono/RPPを求めた。 「結果」3群間に、年齢、心拍数、収縮期血圧の差を認めなかった。左室収縮・拡張末期容積係数は、健常群で糖尿病梗塞群、非糖尿病梗塞群に比べ有意に大きく、左室駆出率は有意に小であった。すなわち心筋梗塞群では明らかな左室リモデリングが見られた。糖尿病梗塞群、非糖尿病梗塞群のremote normal領域Kmonoは、健常群のそれと比べ有意に低値であった(0.0619±0.01200vs0.0561±0.0207vsO.0679±0.0140min^<-1>,P<0.001)。また、同様にKmono/RPPも、糖尿病梗塞群、非糖尿病梗塞群のremote normal領で健常群に比べ有意に低値であった(6.58±1.01vs6.70±2.01vs7.79±1.84x10^<-6>.mmHg^<-1>,p<0.001)。 「まとめ」慢性期梗塞リモデリング心におけるremote normal領域の心筋酸素代謝は、健:常群に比べ有意に低下していた。リモデリングによる左室壁応力の増加にもかかわらず、remote normal領域の心筋酸素代謝が低下していたことは、同部の心筋が正常ではなく、すでに有意に疲弊した状態であることを示し、予後不良の一因と思われた。糖尿病・非糖尿病梗塞心間において、remote normal領域の心筋酸素代謝に差を認めなかった。
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