研究概要 |
心筋梗塞症において、心筋エネルギー源の変化や発症後亜急性期から慢性期にかけて左室健常(remote normal)部心筋にリモデリング(遠心性拡大と壁肥厚)が生じ、患者の生命予後悪化に関係することが知られている。そこで、再灌流療法を受けた急性心筋梗塞症亜急性期における心筋血流・代謝の動態、および慢性期左室リモデリング心におけるremote normal部心筋の代謝変化をポジトロントレーサーとして^<11>C-acetate,^<11>C-palmitateを用いて検討した。 1)心筋梗塞慢性期14例において、^<11>C-acetateの初期分布から局所血流を算出し、対応した部位の心筋脂肪酸代謝、酸素代謝、壁運動と比較した。壁運動と心筋酸素代謝には密接な関係が認められ、壁運動が良好な領域ほど、心筋酸素代謝の指標Kmonoが高値であった。また、局所心筋血流と酸素代謝Kmonoにはr=0.54(p<0.001)の正相関が認められた。さらに、心筋脂肪酸代謝の良好な領域では、酸素代謝、左室壁運動が維持されており、左室機能の維持に心筋脂肪酸代謝の重要な役割が示唆された。脂肪酸代謝が不良な領域において、左室壁運動が低収縮を示す領域と無収縮を示す領域が認められたが、前者では、ぶどう糖が脂肪酸に代わって心筋のエネルギー源として重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 2)糖尿病合併心筋梗塞8例、糖尿病非合併心筋梗塞10例(いずれも1枝病変症例)、健常者6例を対象に、心筋酸素代謝を^<11>C-acetate PETにより、梗塞患者ではremote normal領域、健常者では左室壁全体で計測した。慢性期梗塞リモデリング心におけるremote normal領域の心筋酸素代謝は、健常群に比べ有意に低下していた。リモデリングによる左室壁応力の増加にもかかわらず、remote normal領域の心筋酸素代謝が低下していたことは、同部の心筋が正常ではなく、すでに有意に疲弊した状態であることを示し、予後不良の一因と思われた。糖尿病・非糖尿病梗塞心間において、remote normal領域の心筋酸素代謝に差を認めなかった。
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