研究概要 |
膵臓癌培養細胞株、MIAPaca,Bx-Pc,Panc-1に重粒子線およびX線照射を常酸素下・低酸素下で行い、10%生存率であるD10の酸素増感比(OER)を検討した。従来のX線照射では低酸素状態下で常酸素下に比べて3.0-3.7倍抵抗性となるが、重粒子線ではLET80keV/μの条件で1.2-1.5倍と低酸素の影響を受けにくかった。また、膵癌培養細胞より抽出したタンパク質の解析では、重粒子線照射後、常酸素下および低酸素下でもVEGF-Aの発現は変化なかったが、リンパ管浸潤に関与するVEGF-Cタンパク質の発現低下が認められた。しかしVEGFをup-regulationするRasの発現は照射後増加していることよりRasを介さない経路でVEGF-Cが抑制されていることが示唆された。また、重粒子線(14人)およびX線治療(3人)を行った膵癌患者の血液中のサイトカイン(IL-6,VEGF-A,VEGF-C)をELISA法を用いて測定した。治療前後においてIL-6およびVEGF-Aの変化は認められなかったが、重粒子線治療ではVEGF-Cの低下が認められた。これらのことより重粒子線は低酸素下においても殺細胞効果が高く、またVEGF-Cの発現を抑制することによりリンパ節転移を抑制し局所制御効果を高めていることが示唆された。一方、VEGF-A等は抑制しないことより、重粒子線は肝転移等の血行性転移には影響しないものと考えられた。また、重粒子線・X線治療患者の手術標本に対するインフォームドコンセントを倫理委員会の承認を得て、現在18例の切除標本を集積した。これらについては来年度、タンパク等の解析予定である。
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