研究概要 |
膵臓癌培養細胞株、MIAPaca(膵管内乳頭腺癌由来),Bx-Pc,Panc-1(浸潤性膵癌由来)に重粒子線照射、X線照射を行い、生存率をコロニー形成法を用いて検討した。X線照射ではOER(Oxygen Enhancement Ratio)が2.7-3.4であったが、重粒子線では1.3-2.4とX線と比較して酸素濃度による影響を受けなかった。膵癌は電極を用いた酸素濃度の測定で5mmHg以下と極めて低いことが報告されている(Koong AC,2000)。これより酸素濃度の影響を受けない重粒子線は治療に有利であると考えられた。そこでこれらの細胞に重粒子線を照射しタンパクの発現をウエスタンブロット法を用いて測定した。乳頭腺癌は浸潤性膵癌より一般的に血流が良好であるが、VEGF-AおよびそのレセプターであるVEGFR-2はともに浸潤膵癌であるPanc-1の方が発現が高かった。窒素ガスを培養フラスコに1時間流し低酸素にした状態におくとVEGF-A、VEGFR-2の発現は変化は認められず、重粒子線照射によってもそれらの発現は変化しなかった。実際膵癌重粒子線治療28症例の血清中VEGFも照射前後で有意な差は認められなかった。。一方局所再発に関与するVEGF-C(リンパ管内皮細胞増殖因子)(Niedergethmann : Pancreas,2002)の発現は低酸素においても重粒子線照射においても変化しなかったが、そのレセプターであるVEGFR-3は低酸素状態で著明に増加し重粒子線照射にて発現が低下した。これらのことより膵癌細胞は低酸素状態により自己の受容体であるVEGFR-3の発現を増加し増殖能・浸潤能を獲得し局所再発を引き起こすものと考えられた。重粒子線照射はこのVEGFR-3の発現を低下することにより局所再発を抑制しているものと考えられた。
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