研究概要 |
本研究の最終目的は移植肝幹細胞生着における微小循環構築の意義を明らかにすることである。昨年までの研究で、門脈遮断肝から分離、採取した肝幹細胞である肝上皮性細胞は初代培養肝細胞と比較し低酸素耐性を有することが明らかになった。本年度は実験の再現性すなわち異なる個体から分離した肝上皮性細胞も同様の低酸素耐性を有するか否かを明らかにし、さらに肝上皮性細胞の低酸素耐性の機序について、虚血性障害に対する細胞保護効果が示唆されているHSP-72およびヘムオキシゲナーゼ(HO)-1の関与を検討した。さらに肝上皮性細胞が増加する門脈遮断肝が虚血再灌流障害に対し耐性を有するか否か、ラットのin vivoで実験した。 (1)SD系ラット2匹の門脈を結紮し7日後にコラゲナーゼ灌流法により肝上皮性細胞分画を得て7日間の培養後にコロニーを採取。これをさらに継代培養し肝上皮性細胞#2と#3を得た。これを2%酸素下で18時間培養し細胞viabilityの変化を検索した。その結果、培養18時間後でも97%の生細胞比率が保たれMTT値は20〜30%上昇した。これは昨年までの結果と同様であり本研究の再現性が証明された。 (2)HO-1およびHSP-72についてウェスタンブロット法に加えRT-PCRによるmRNAの発現解析を加えた。その結果、肝上皮性細胞では低酸素培養中経時的にHO-1発現が高まり、HO-1発現が低酸素耐性に関与する可能性が示唆された。 (3)SD系ラットの脾臟を皮下に固着し3週後に門脈本幹を結紮した。3,7,11日目まで肝内にAFP陽性の肝上皮性細胞が増加していることを確認した。次に門脈結紮3日後に60分間の肝虚血を加え、再灌流3時間後に採血し肝酵素逸脱の程度を検索し、門脈結紮しないラットを対照として比較した。その結果、門脈結紮群でAST, ALT.LDH上昇は有意に抑えられ、肝上皮性細胞が増加する門脈遮断肝が虚血再灌流障害に対して耐性を有することが示された。
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