研究概要 |
本研究の最終目的は移植肝幹細胞生着における微小循環構築の意義を明らかにすることである。門脈遮断肝から分離、採取した肝幹細胞である肝上皮性細胞の低酸素耐性とその機序としてのストレス蛋白と転写経路であるhypoxia inducible factor(HIF)-1αの発現について検討した。また門脈遮断により肝上皮性細胞を増生させた肝臓で低酸素耐性がみられるか否かをラットで検討した。 (1)門脈遮断肝から分離、採取した肝上皮性細胞は初代培養肝細胞と比較し明らかな低酸素耐性を有した。異なる個体から分離した肝上皮性細胞で実験の再現性を確認した。 (2)低酸素耐性の機序について虚血性障害に対する細胞保護効果が示唆されているHSP-72およびヘムオキシゲナーゼ(HO)-1の関与を検討した。その結果、肝上皮性細胞では低酸素培養中経時的にHO-1発現が高まり、HO-1発現が低酸素耐性に関与する可能性が示唆された。 (3)肝上皮性細胞の低酸素培養中HIF-1α発現をウェスタンブロット法で検索した。その結果HIF-1αの増強はみられなかった。 (4)SD系ラットの脾臓を皮下に固着し3週後に門脈本幹を結紮した。3,7,11日目まで肝内にAFP陽性の肝上皮性細胞が増加していることを確認した。次に門脈結紮3日後に60分間の肝虚血を加え、再灌流3時間後に採血し肝酵素逸脱の程度を検索し、門脈結紮しないラットを対照として比較した。その結果、門脈結紮群でAST, ALT.LDH上昇は有意に抑えられ、肝上皮性細胞が増加する門脈遮断肝が虚血再灌流障害に対して耐性を有することが示された。 以上のごとく肝上皮性細胞の細胞レベルでの低酸素耐性だけでなく肝上皮性細胞が増生した肝臓の臓器レベルでの耐性誘導に成功した。低酸素で促される血管新生については今後検討する。
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